膵嚢胞とはどんな病気か

 膵嚢胞とは膵臓のなか、もしくはその周囲にできた袋(嚢胞)のことです。袋のなかには液体がたまっています。
 近年、画像診断装置の進歩と普及により、膵嚢胞と診断される頻度が増えてきました。大きさは数mm程度から10cmを超えるものまであり、個数も単発性のものから多発するものまであります。
 さらに、膵嚢胞と診断されるなかに、膵管内乳頭状粘液性腫瘍(すいかんないにゅうとうじょうねんえきせいしゅよう)(IPMN)と呼ばれる腫瘍が多く含まれることが明らかになってきています。これは、膵管(膵液の流出路)に発生する乳頭状の腫瘍によって作られた多量の粘液が膵管内に貯留することによって、膵管が膨らんで嚢胞のように見える、というものです。

原因は何か

 膵嚢胞には、肝臓や腎臓にできる嚢胞と同じような、とくに病的なものではない嚢胞のほかに、腫瘍や炎症に関連した嚢胞があり、原因や病態によって、治療や慎重な経過観察が必要な場合があります。
 腫瘍に関連した嚢胞の代表がIPMNです。膵臓には、膵液という消化液を作るはたらきがあり、この膵液は、膵管と呼ばれる1〜2mm径の管を通って、十二指腸に流れ出ます。膵管は、最終的な流出路である主膵管と、その上流の、支流のごとき分枝膵管からなり、さらに分枝膵管は2次分枝・3次分枝と細かく分かれています。通常、膵液はさらさらした液体ですが、IPMNでは、細い分枝膵管内にできる腫瘍が多量の粘液を産生するために、分枝膵管がふくらんで袋状に見えるようになります。
 膵管内に存在する腫瘍そのものは初期のうちは非常に小さく(1mm以下)、各種の画像検査でもとらえられないため、膵管の袋状のふくらみのみが認識され、膵嚢胞と表現されることがあります。したがって、膵嚢胞と診断された場合も、IPMNの初期像も念頭におく必要があります。
 IPMNは発育が非常にゆるやかで数年から数十年をへて徐々に進行していくもので、経過により、貯留する粘液量が増えてくると、より大きな嚢胞としてとらえられるようになり、また、周囲の分枝膵管にも粘液が貯まってくると、近接する分枝膵管がいずれも嚢胞状にふくらんだ結果、“ぶどうの房”状に見えてきたりします。さらに、粘液が主膵管にまで貯留すると、画像上、主膵管の拡張が認められるようになります。このような時期になると、ようやく、腫瘍そのものが画像検査でとらえられるようになり、治療(手術)についての検討が必要になります。
 IPMN以外にもいくつかの腫瘍と関連した膵嚢胞があり、その嚢胞内容液の性状から、粘液成分を主体とする粘液性嚢胞腺腫と、漿液(しょうえき)成分(さらさらした透明な液体)を主体とする漿液性嚢胞腺腫、などと呼ばれます。前者は悪性化(がん化)する頻度が高いのに対し、後者の悪性化は極めてまれで、腫瘍そのものの性質も異なります。
 一方、膵炎や膵外傷後に生じた嚢胞を仮性嚢胞といい、液体の周囲を線維性組織がおおっています。液体の成分は壊死組織、膵液、炎症性滲出液などです。
 小さな仮性嚢胞は自然消失するものもありますが、膵管と交通している(つながっている)嚢胞では、膵液が嚢胞内に流れ込むため、さらに大きくなります。サイズの大きいものは、嚢胞内に細菌感染を起こしたり、周囲の血管(動脈)に障害を起こして動脈瘤(どうみゃくりゅう)などの合併症を引き起こす危険性があります。

症状の現れ方

 IPMNの場合、多くは無症状で経過します。時に、作られる粘液が主膵管にたまった結果、膵液そのものの流れが悪くなると、腹痛や背部痛などの症状が現れ、急性膵炎を起こすことがあります。
 仮性嚢胞の場合、膵炎や外傷など、原因が存在するので、仮性嚢胞と診断されるよりも前に、それらの原因による腹痛などの症状が先行します。慢性膵炎に伴う仮性嚢胞のなかには、腹部膨満感や腹痛が現れ、それによって初めて診断されるものもあります。

検査と診断

 膵嚢胞の検査は、超音波検査が基本になりますが、超音波では膵臓全体を描出することは困難です。精密検査としては、MRI検査が最も精度が高く、さらに、膵管や胆管などの液体成分のみを画像化したMRCP(MR胆管膵管撮像)を行うと、嚢胞と膵管の関係が非常に詳細にわかります。単発の小さな嚢胞の場合、非腫瘍性の嚢胞か、IPMNの初期像かは区別できません。ぶどうの房のような多房性嚢胞や、主膵管拡張を伴う嚢胞の場合、IPMNをより強く疑います。また主膵管の不整な狭窄や拡張を伴う場合、慢性膵炎による仮性嚢胞の可能性が高くなります。
 CT検査は、造影剤を使えば、嚢胞を含む膵全体を診る検査として非常に精度の高い検査です。とくにIPMN以外の嚢胞性腫瘍は、比較的厚い袋に包まれた、夏みかんのような形をした粘液性嚢胞腺腫、薄い膜におおわれ小嚢胞が集まった、ハチの巣のような形をした漿液性嚢胞腺腫、などの特徴的な所見がみられることが多く、診断に有用です。
 IPMNの場合、嚢胞状にみえる拡張膵管を見るだけでなく、膵管の壁に存在する小さな腫瘍を確認する必要があります。腫瘍そのものをとらえる最も精度の高い検査は、超音波内視鏡(EUS)という、超音波機能を搭載した内視鏡検査がありますが、術者の熟練度により大きく左右され、一部の専門施設でしか行えません。これらの検査で悪性が疑われた場合、内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)を行います。ERCPでは、造影剤を直接膵管内に注入するため、膵管と嚢胞の交通がわかるほか、膵液を採取して細胞の検査を行うなどの利点があります。

治療の方法

 IPMNの場合、悪性化の所見が疑われれば、手術による切除の対象になります。EUSで膵管壁に存在する腫瘍が明らかな場合、ERCPと同時に採取された膵液の細胞の検査で悪性の所見が得られた場合、などがあげられます。
 しかしながら、多くのEUSのない施設では、小さな腫瘍の存在をとらえられていない可能性があるため、嚢胞の大きさ、すなわち、粘液の量から腫瘍の悪性度を類推し、手術を検討します。EUSを行わない場合、手術が手遅れになるといけないので、一般には嚢胞径(嚢胞状に拡張した分枝膵管の径)3cmを手術の基準としていますが、この時点ではまだ命を奪うようながんには至っていないことがほとんどです。一方、なかにはすでに膵管の内腔にできた腫瘍が膵管の外(膵実質)に浸潤し、あるいは他臓器に転移した状態で発見されることもあります。このような場合には通常の膵がんに準じた治療が必要になります。
 悪性所見のないIPMNの場合、年2、3回の経過観察になります。この際、IPMNが悪性化する以外に、IPMNと離れた部位に、通常の膵がんができる可能性があります。経過観察中にこれらの悪性所見が出現する頻度は年率0・5〜1%程度とされており、腫瘍マーカーなどの血液検査と、超音波検査・造影CT検査・MRCPなどの体への負担の少ない画像検査を組み合わせて行い、悪性化が疑われる場合には、EUSやERCPなどの内視鏡検査を追加します。
 IPMN以外の嚢胞性膵腫瘍については、粘液性嚢胞腺腫が疑われた場合、悪性化の可能性が高く、手術による切除の対象となります。漿液性嚢胞腺腫が疑われた場合、悪性化の可能性は低く、経過観察可能とされていますが、徐々に増大するため、手術による切除を行うこともあります。
 また、これらの診断は切除後の病理検査で最終的に決定されるので、まぎらわしい場合もあり、術後に診断が変わることもありえます。
 仮性嚢胞に対しては、食事をやめて点滴などで栄養を補いながら膵を安静に保つ治療が基本になりますが、それでも増大する場合、ERCPを応用して、膵管から嚢胞内に管(ステント)を入れて減圧を試みたり、内視鏡を用いて、胃や十二指腸などから仮性嚢胞に直接針を刺して交通をつくって嚢胞液を持続的に消化管に排液させたりする治療も行われます。さらに、感染などを合併する場合には、嚢胞切除などの外科治療が行われることもあります。

膵嚢胞に気づいたらどうする

 膵嚢胞は、先述のごとく、疾患概念が複雑で、画像検査による診断にも難渋することが多く、膵臓の専門医以外では混乱を生じていることも少なくありません。治療方針についても、とくにIPMNはゆっくり進行し、また、高齢者に多くみられるため、併存する他の疾患などによる予後なども含めた治療戦略を考える必要があります。したがって、膵嚢胞と診断されたら、一度、消化器、とくに膵臓の専門医に相談することをすすめます。