どんな治療法か

 血液中には赤血球、白血球、血小板という3種類の細胞があり、それぞれ酸素の運搬、感染防御、止血という生命維持には欠くことのできないはたらきを担っています。そしてこれらの細胞はすべて造血幹細胞と呼ばれる細胞からつくられていることは、急性白血病(きゅうせいはっけつびょう)の項で述べたとおりです。
 この造血幹細胞を採取して移植する治療が造血幹細胞移植です。造血幹細胞は骨髄(こつずい)・末梢血(まっしょうけつ)・臍帯血(さいたいけつ)から採取され、おのおの骨髄移植(BMT)、末梢血幹細胞移植(PBSCT)、臍帯血移植(CBT)と呼ばれます。
 また、造血幹細胞移植は自分自身の正常と考えられる造血幹細胞を採取して移植する自家(じか)移植と、兄弟などの血縁者や非血縁者の造血幹細胞を移植する同種(どうしゅ)移植に分けることができます。

どのような時に必要か

 数が著しく減ったり、質が悪くなった造血幹細胞を正常な造血幹細胞と入れ替える場合、造血幹細胞移植が必要です。重症再生不良性貧血(さいせいふりょうせいひんけつ)や骨髄異形成(こつずいいけいせい)症候群などがこれにあたります。
 また、強力な治療によって起こる不可逆的(元にもどらない)な造血障害を避ける目的で行う場合もあります。白血病(はっけつびょう)、リンパ腫多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)、一部の固形がん(胚細胞(はいさいぼう)がん、神経芽細胞腫(しんけいがさいぼうしゅ)など)は化学療法や放射線療法の効果があり、治療を強化すればするほど、治療効果も高まります。しかし、無制限に投与量(照射量)を増やすと、病気に対する治療という面ではよいのですが、正常な造血能も損なわれてしまい、治療後に自分の力では血液がつくれなくなってしまいます。そこで正常な造血幹細胞を投与(移植)すれば、血液をつくる力は失われることなく、安全に強力な治療ができます。

具体的な方法と経過



 造血幹細胞移植の7〜10日前から、患者さんには前処置(ぜんしょち)が行われます。この目的は悪性細胞を根絶することと、同種移植の場合は拒絶反応を防ぐことです。全身放射線照射(TBI)と大量抗がん薬投与、あるいは複数の抗がん薬の大量投与が標準的な方法ですが、最近ではその量を減らした骨髄非破壊的(こつずいひはかいてき)前処置(この前処置を用いた移植をミニ移植という)も用いられています(図15)。
 前処置が終了すると、患者さんの骨髄は空(から)となり、正常な造血幹細胞を受け入れる準備ができます。骨髄移植では、全身麻酔をして腰の後ろの骨(腸骨(ちょうこつ))から骨髄穿刺(せんし)(針を刺す)を繰り返して約1lの骨髄液を採取し、これを輸血の要領で点滴で静脈注射します。
 通常、造血幹細胞は末梢血中にはほとんど存在していませんが、顆粒球(かりゅうきゅう)コロニー刺激因子(G‐CSF)を投与すると、末梢血中の造血幹細胞の数を増やすことができます。そのうえで連続血液成分分離装置を用いて末梢血からの造血幹細胞の採取が行われます。


 臍帯血(さいたいけつ)(臍(へそ)の緒(お)の血液)のなかにも造血幹細胞が多く存在します。臍帯血は胎児の娩出が終了し臍帯が切断されたのち、胎盤をスタンドに吊り下げ、その表面にある静脈を刺して採取します(図16)。
 自家移植の場合は末梢血が使われることが多く、この場合、幹細胞はマイナス180℃に凍結保存されます。同種移植(骨髄、末梢血)の場合は採取後そのまま移植されることが多いのですが、臍帯血は使用されるまで凍結保存されます。


 移植された造血幹細胞は骨髄に流れ着いて造血を開始し、移植後約2〜3週間で造血が回復します(生着(せいちゃく))。同種移植の場合には、生着後も他人の造血幹細胞を入れたことによる反応(同種免疫反応)が起こり、これに伴う合併症(移植片対宿主病(いしょくへんたいしゅくしゅびょう):GVHD)が起こります。そのためにドナー(提供者)と患者さんのHLA型(白血球のタイプ)を合わせたり、移植前から免疫抑制剤を投与して、この合併症を予防します(図17)。

骨髄バンクと臍帯血バンク

 HLA型が一致したドナーは兄弟姉妹で見つかる確率が大きかったのですが、最近の少子化のため、その確率は低下しています。そこで考え出されたのが骨髄バンク、臍帯血バンクです。
 これは造血幹細胞移植を必要としている非特定の患者さんに無償で骨髄または臍帯血を提供したいというボランティアの善意を、中立な立場で患者さんに供給する機関のことです。
 現在日本には1つの骨髄バンク、11の臍帯血バンクがあり、造血幹細胞移植の推進に寄与しています。