遺伝子異常とは設計図に書かれたデータの異常です。受精卵の設計図の半分は精子が、半分は卵子が運んできたものです。精子や卵を配偶子(はいぐうし)と呼びますが、配偶子の設計図は父親と母親が自分の体をつくった時に使用した設計図をそれぞれ半分だけコピーしたものです。たくさんのコピーにより、設計図を数多くの配偶子に配らなくてはならないのですが、このコピーの段階でミスプリントが起こったのが遺伝子異常と考えてください。ミスプリントは専門用語では突然変異を指します。
 ヒトゲノムが解読され、大きな遺伝子の数は3〜4万といわれています。遺伝子には体を構成する蛋白質をつくる遺伝子、体の機能に関係した酵素をつくる遺伝子、遺伝子の制御に関わる遺伝子など、いろいろな種類があります。基本的には遺伝子は蛋白質をつくる情報で、DNAという物質からできています。ミスプリントにより遺伝子の情報が障害を受けると正常な蛋白質がつくられず、先天異常の原因になるわけです。

単一遺伝子の変異による疾患

 一種類の遺伝子の情報の間違いで病気が出る(専門用語では発現という)ようなものを単一遺伝子異常による疾患(あるいは単一遺伝子病)と呼びます。
 基本的な遺伝子の情報は父親と母親の両方から伝わりますから、2種類の同じ遺伝子の相互作用により病気が出るか出ないかが決まります。これがメンデルの法則ですが、単一遺伝子病の伝わり方はメンデルの法則に従うため、メンデル遺伝病(または古典的遺伝病)と呼ばれることがあります。

遺伝様式による分類



 単一遺伝子異常のすべてが“疾患”になるわけではありませんが、何らかの遺伝形質発現の原因になり、2万を超える遺伝形質が知られています。そのうち障害の原因になるものを遺伝病と通称しますが、遺伝様式から常染色体優性(じょうせんしょくたいゆうせい)遺伝病(AD遺伝病)、常染色体劣性(じょうせんしょくたいれっせい)遺伝病(AR遺伝病)、X染色体連鎖(せんしょくたいれんさ)遺伝病(伴性(はんせい)遺伝病)と分けるのが普通です。よく知られた疾患名を表4にあげてありますので、参考にしてください。


 生まれてくる子どもの1〜2%に表4にあるような病気がみられます。遺伝子異常の原因は突然変異です。1回のコピーでひとつの情報に突然変異が起こる確率は10万〜100万分の1と低いのですが、遺伝子の数が膨大なため、受精卵には数多くの突然変異が起こっていると考えられます。重い遺伝子異常をもった受精卵の多くは胎生初期に流産すると考えられているので、生まれてくるのは1〜2%にすぎないのです。

すぐには障害が現れない場合

 遺伝子異常があってもすぐには障害が現れにくい場合があります。常染色体劣性遺伝病の保因者がそのひとつの例です。赤ちゃんに常染色体劣性遺伝病が出ていた場合は両親が保因者の可能性があるので、保因者という言葉は非常に悪いイメージに聞こえます。しかし、一般の人でも平均すると一人あたり10個以上の重い常染色体劣性遺伝病の遺伝子を保因者の状態でもっているのです。同じ遺伝子異常をもつ保因者同士でなければ常染色体劣性遺伝病の赤ちゃんは生まれてこないので、ほとんどの人は自分がどんな病気の遺伝子の保因者なのか知らないまま一生を送っているのです。
 遺伝子異常があっても障害が現れない例がもうひとつあります。常染色体優性遺伝病としてよく知られたハンチントン病や筋緊張性ジストロフィー(成人型)は発病年齢が40歳前後で、若い間は普通に生活できます。遺伝医学の進歩のおかげで病気が出ていなくても遺伝子の診断ができるようになりましたが、治療ができない病気の診断はとくに慎重に行う必要があります。そのほか、遺伝子の異常が障害として現れる過程ではいろいろな要素が関係するので、症状の重さには個人差が現れるのが普通です。