どんな感染症か

 2012年6月にサウジアラビアで60歳の男性患者が肺炎および腎不全のためにある病院に入院し、この患者の喀痰から新規コロナウイルスが分離されました。それとは別に、2012年に英国においてカタールとサウジアラビアを訪問した49歳のカタール国籍の男性が呼吸器症状を示し、その患者から新規コロナウイルス(前記のウイルスと同じウイルス)が分離されました。両患者とも死亡しました。

 分離された新規ウイルスによる重症呼吸器感染症は、中東呼吸器症候群(Middle East respiratory syndrome、MERS)と命名され、原因ウイルスはMERSコロナウイルスと命名されました。MERSコロナウイルスは、SARSコロナウイルスと同様にコロナウイルス科βコロナウイルス属に分類されます。なお、MERSは一般にはマーズと呼ばれています。

 中東やアフリカに生息するヒトコブラクダがMERSコロナウイルスを有していて、ヒトはヒトコブラクダから感染するのではないかと考えられています。人獣共通感染症の一つといえます。ヒトコブラクダが宿主だとすれば、中東においてMERSが流行し続ける可能性があります。

症状の現れ方

 発熱、咳、呼吸困難が主な症状で、そのほかに喀血、胸痛、筋肉痛などが認められます。消化器症状として腹痛、吐き気、嘔吐、下痢がそれぞれ約20%の患者で認められます。男性に多く、50歳以上の患者が全体の75%を占めます。

 2012年から中東でMERSの流行が確認されていますが、MERSの総患者数は、2015年7月時点の世界保健機関(WHO)の発表によると、サウジアラビアで最も多くの患者が報告され、世界中(多くは中東)で約1400人です。その致死率は40%にものぼります。

 2015年5月にサウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールを訪問した韓国籍の人が韓国に帰国後MERSを発症し、その輸入感染事例が感染源となった国内流行が韓国で発生しました。約2カ月で流行は終息しましたが、中国における韓国からの輸入感染事例1名を含めて、2015年7月13日時点で全体で186人(36人が死亡、致死率約20%)の患者が発生しました。

検査と診断

 中東を訪問した人、中東で生活している人が呼吸器感染症状を示した場合に検査の対象となります。「疑い患者」を医師が診た場合には、最寄りの保健所に相談しなければなりません。咽頭スワブ(拭い液)を採取し、その中にMERSコロナウイルスが存在するか否かを、ウイルス分離検査または遺伝子増幅検査により確認します。日本の場合、各都道府県等の地方衛生研究所や国立感染症研究所において検査が実施できる体制が整っています。

治療の方法

 特異的な治療法はなく、対症療法が基本です。MERSは患者からヒトに、特に院内感染の形で流行が拡大することから、院内における感染予防策がとても重要です。日本の感染症法では2類感染症に指定されているので、診断した医師はただちに最寄りの保健所に届けなければなりません。