たとえば、激しく緊張した時に手の震えを感じたことのある人も多いでしょう。このような場合、少し経てば自然と震えが治りますから、あまり心配はいりません。しかし、頻繁に震えを感じたり、何か特定のタイミングで震えが起こったりするのは、もしかしたら、病気が潜んでいる証拠かもしれません。なかには脳の異常やトラブルなど、命のリスクに関わるものもありますから、「ストレスや緊張のせい」と安易に片付けてしまうのは危険です。ここでは、手の震えの症状を通して考えられる病気を解説します。
生月 弓子先生(ミッドタウンクリニック)
信州大学医学部 卒業
東京大学 大学院 卒業
医学博士 日本産科婦人科学会 認定医
婦人科(子宮、卵巣)癌検診、健康相談、また避妊、低用量ピル、緊急避妊ピル、月経調節、月経困難症、過多月経、月経異常、不正性器出血、月経前症候 群、子宮筋腫、子宮内膜症、婦人科腫瘍、更年期症状、掻痒感、性感染症、不妊、妊娠などの一般産婦人科診療、セカンドオピニオンも行っている。

そもそも「手の震え」にはこれだけの種類がある

手に限らず、体が震えることを医学用語では「振戦」と言います。自分の意志とは関係なく、筋肉が収縮したり、弛緩したり繰り返すのが特徴です。振戦は症状によって次の3つに分類されます。

1)生理的な振戦

もっとも多いタイプ。緊張や恐怖、過度な寒さを感じた時に手や体が震えます。病気に由来するものではないので、ほとんどの場合、ストレスの元が取り除かれたり、時間が経過したりすれば、自然と震えは治ります。

2)安静時振戦

リラックスして安静にしている状態で振戦が起こります。動くと震えがだんだん弱くなるのが特徴です。

3)運動性振戦

じっとしている時には震えは起こりませんが、何か運動をしようとする時に振戦が起こります。具体的には次のような種類があります。

・姿勢振戦
ある姿勢をとった時に震えが起こります。たとえば新聞や本を手に持って読む時など、重力に逆らった行動を起こそうとする時に起こるケースが目立ちます。

・運動時振戦
手足を動かすなど、ある運動をすることによって、震えが起こります。

・企図振戦
たとえばエレベーターのボタンを押した時や、ものに向かって手を伸ばそうとした時に振戦が起こります。コップで水を飲もうとした時、コップが口に近づくと震えがひどくなるのもこのタイプ。目的に近づくと震えが起こり、思った動作ができなくなります。

・羽ばたき振戦
腕を伸ばしたり手を広げたりした時に振戦が起こります。

じっとしている時に震えが起こる「安静時振戦」ならパーキンソン病かも

じっとして安静にしている時、震えが起こるようなら、それはパーキンソン病かもしれません。これは、主に40〜50歳以降に発症する病気で、原因不明の神経変性疾患。神経伝達物質の一つである、ドーパミンが減少することによって起こるとされています。症状は体の振戦から始まり、筋肉が硬くこわばったり、動作が緩慢になったり、転びやすくなったりするほか、便秘や立ちくらみ、不眠、抑うつなど多岐に渡ります。治療では、ドーパミンを補う薬物療法や、運動機能を改善するためのリハビリテーションを行うことが多く、これらを複合的に行うことで症状の進行を食い止めます。体を動かさず、じっと止まっている状態のときに手などがブルブルと震え出したり、何らかの動作をしようと動くと、震えが収まっていたりするのは、パーキンソン病の代表的な初期症状ですから、もし心当たりがある場合はできるだけ早めに、神経内科を受診すると良いでしょう。

原因:パーキンソン病

治療法:薬物療法、リハビリテーション

チェック方法:手足の震え、筋肉のこわばり、動作が緩慢、転びやすい、便秘、立ちくらみ、抑うつ、睡眠障害

関連する病気: パーキンソン病

一定の姿勢になった時に起こる「姿勢振戦」なら、次の病気の疑いが…

ある姿勢をとった時に震えが起こるなら、次の病気の可能性があります。

1)本態性振戦

「本態性」とは、言い換えれば「原因不明」ということ。つまり、本態性振戦とは原因となる病気が見つからない震えのことを言います。手の震えを起こす病気の中で最も一般的であり、高齢者に多く見られます。特徴は、手や頭、声の震え以外に症状がないこと。症状が軽度なら日常生活に差し障りはありませんが、ひどくなると文字を書きづらくなったり、手に持ったコップの水がこぼれたりなど、不自由が現れます。発症の理由はまだ解明されていませんが、ストレスが強くなると症状がひどくなったり、また、家族や親類に同じような症状を示した人がいれば、発症の可能性が高くなったりすることが、最近の研究によりわかっています。手の震えが見られることからパーキンソン病と混同されるケースも多いのですが、パーキンソン病のような筋肉の固縮や無動という症状はなく、振戦のみ。また、パーキンソン病は安静時に振戦が現れますが、本態性振戦はある姿勢になった時や、ある動作をしようとした時に症状を現しますので、両者を区別することができます。

原因:本態性振戦

治療法:薬物療法、手術療法

チェック方法:一定の姿勢になったり、動作をしようとしたりする時に振戦が起こる

2)甲状腺機能亢進症(バセドウ病)

文字を書く時や細かな作業をする時など特定の姿勢をとった時、指先などにとても細かい震えが現れたら、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)かも知れません。これは、甲状腺ホルモンが過剰に生成してしまっている事が大きな原因と言われていて、手の震えのほか動悸や息切れ、体重減少などが起こったりするのが特徴です。体の新陳代謝を活発にする甲状腺ホルモンが過剰に分泌されているため、体内は常に運動をし続けているような状態であり、暑がりになったり、異常な発汗を見せたりします。また、精神的にイライラしたり、不安定になったり、メンタル面に不具合を起こすのも、この病気の特徴。早めに治療を開始すれば、それほど生活の質を落とさずに済みますが、放置しておくと重篤な合併症を起こすことも。「ものを書く時指先に細かな震えが出るようになった」「暑がりになった」など、普段と違う症状が見られたら、早めに医師に相談しましょう。

原因:甲状腺機能亢進症(バセドウ病)

治療法:薬物療法

チェック方法:手足のしびれ、微熱、倦怠感、動悸、息切れ、疲労感、多汗、体重減少、暑がり、眼球突出、イライラ、不眠

関連する病気 甲状腺機能亢進症

行動した時に振戦が起こる「企図振戦」「運動振戦」は脳の異常かもしれません

コップで水を飲もうとした時、コップが口元に届きそうになるほど、手の震えが大きくなるケースがあります。また、あらゆる運動において震えが生じ、動作の終了とともに震えが消えることもあります。このような「企図振戦」「運動振戦」には脳の病気が潜んでいるかもしれません。

1)脊髄小脳変性症

脊髄小脳変性症とは、人間の運動を司る脊髄や小脳に異常が現れる病気のこと。現在、難病に指定されています。原因はさまざまであり、遺伝によるものと遺伝しないものに大きく分けられます。手が震えるほか、ろれつが回らなくなったりする症状も見られ、また、歩行時にふらつきが見られるのも特徴です。遺伝性・非遺伝性ともに、現代では根本的な治療法がなく、「震えを起こしそうな動作を避ける」「飲酒によって震えがひどくなるなら禁酒する」など、対症療法が中心になります。しかし、運動失調を改善したり、症状の進行を遅らたりするために薬物療法を取ることもあります。

原因:脊髄小脳変性症

治療法:薬物療法、リハビリテーション

チェック方法:特定の動作時に手が震える、ろれつが回らない、歩行時のふらつき

関連する病気: 遺伝しない脊髄小脳変性症遺伝性脊髄小脳変性症

2)小脳腫瘍

脳腫瘍にはさまざまな種類がありますが、そのうち、小脳に腫瘍ができるものを小脳腫瘍と言います。一般に、大人は大脳に腫瘍ができやすく、小脳の腫瘍は小児にできやすいとされています。小脳腫瘍の主な症状は、運動機能の低下。小脳は体のバランスを保つ機能がありますから、ここに腫瘍ができるとまっすぐに立つことが困難になったり、酩酊しているようにフラフラしたり、転倒しやすくなったりします。また、神経と筋肉が協調することができなくなり、手に震えが出たり、思った通りの行動ができなくなったりするという症状も見られます。基本的には手術による治療が一般的で、そのほか、放射線治療、薬物療法も採用されます。

原因:小脳腫瘍

治療法:外科手術、放射線治療、薬物療法

チェック方法:手の震え、平衡感覚の欠如、ろれつが回らない、認知機能の低下

関連する病気: 脳腫瘍

3)多発性硬化症

脳や脊髄などの中枢神経に炎症が起こり、さまざまな障害を繰り返す病気のこと。脳や脊髄の神経を覆っている髄鞘が炎症を起こすことで、脳からの神経伝達がうまく機能しなくなります。病巣ができる場所によって症状は異なりますが、一般的にしびれやうずきなどの感覚障害、歩行や運動がしづらくなる運動障害、ふらついてまっすぐ歩けなくなる平衡感覚障害などのほか、疲労、手の震え、腕や下肢の痛みが現れます。一度発症すると、症状が良くなったり、悪くなったりを繰り返すことで徐々に悪化していき、脳の萎縮や認知機能の低下も発症。根本的な治療法はまだありませんが、早期に治療を開始することで進行を遅らせることは可能です。症状が気になる場合は早めに神経内科を受診しましょう。

原因:多発性硬化症

治療法:薬物療法

チェック方法:手足のしびれ、運動困難、疲労、手の震え、腕や下肢の痛み、視力低下、認知機能の低下、抑うつ

関連する病気: 多発性硬化症

4)脳梗塞

体の片側だけ手足がしびれたり、片方の目だけ見えなくなったりする場合は、脳梗塞の前触れかもしれません。また、平衡感覚に異常が出て突然めまいに襲われたり、視野の半分が欠けたりするのも、脳梗塞の代表的な前兆です。このような脳梗塞の前触れは「一過性脳虚血発作」と呼ばれていて、通常、5〜15分以内、長くても24時間以内に治まってしまうのが特徴です。脳梗塞には、動脈硬化によって脳の血管が詰まる「脳血栓症」と、心臓や頸動脈にできた血栓が脳動脈に達し、脳の血管を詰まらせる「脳塞栓症」があります。どちらも脳の血管を詰まらせ、細胞を死に至らしめる恐ろしい病気です。特に、高血圧の人や糖尿病の人は脳梗塞を発症するリスクが高いので、手のしびれや震えを感じたら急いで医師の診断を受けた方が良いでしょう。後遺症を残さないためにも、できるだけ早く治療を開始することをお勧めします。

原因:脳梗塞

治療法:薬物療法

チェック方法:体の片側のしびれや震え、突然のめまい、言語障害、意識障害、嚥下障害、健忘症、ふらつき、複視

関連する病気: 脳梗塞

【まとめ】

このように、手の震えと一口にいっても原因はさまざまです。ここで紹介したものの他、低血糖症やアルコール依存によっても、手の震えが起こることがあります。まずはなぜ、手の震えが起こっているのか正しく理解するために、「いつ」「何をしようとした時」、震えが起こったのか記録してみると良いでしょう。また、脳の異常が引き金となって手の震えを起こしている場合もあり、放置しておくと合併症のリスクも高まります。手の震えが見られたら、「時間が経ったら治った」と油断せず、できるだけ早めに神経内科を訪れることをお勧めします。

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