厚生労働省は、2025年には認知症患者が700万人に及ぶと推計しています。この数字は、認知症がもはや他人事ではなく、私たち自身、もしくは家族の誰かがなる可能性が非常に高いことを示しています。ここでは認知症の症状から介護にあたるときのポイントまでくわしく解説します。

認知症とはどんな病気なの?

認知症とは、なんらかの原因で脳の神経細胞が破壊されたり働きが悪くなることによって、記憶や分析・判断、実行といった認知機能が障害され、生活上の支障をきたす状態のことで病名ではありません。
人は誰でも加齢とともにもの忘れの症状が起こってきます。しかし、認知症は単なるもの忘れ(良性健忘)とは異なります。
認知症の記憶障害では、生活自体が困難になるほどのもの忘れが起こります。

たとえば、皆さんは今朝食べた朝食の内容を覚えていますか? 食べたことは覚えているが何を食べたか忘れてしまうのは、加齢に伴う単なるもの忘れ。
それに対して認知症の場合は、メニュー内容ではなく、今朝朝食を食べたことの体験そのものが記憶からすっぽりと抜け落ちてしまいます。
そのため、何度も食事を催促し、食生活や人間関係にも悪影響を及ぼしてしまうのです。

認知症を診断するのは容易ではありません。新しいことが覚えにくいなどの記憶障害は、高齢者のほぼ全員にみられるものです。ただし、年相応を越えた顕著な記憶障害は問題です。そのなかには記憶障害だけしか異常のない軽度認知障害があります。その一部(1年で8人に1人の割合)が認知症に進行するといわれています。

認知症の症状 初期段階のサインを見逃さないで

認知症はある日突然発症するのではなく、脳の中では何年も前から変化が起き始めていますから、何らかのサインがあります。これを見逃さないことが大切です。

また、認知症の本人に自覚がないと思うのは大きな間違いです。
もの忘れが多くなってきた初期の段階では、「なんだかおかしい、皆に迷惑をかけてしまうので辛い、悲しい、どうしてこんなことに」と本人は困惑し、不安感ややり場のない気持ちを抱えています。

異常を認めたくないという気持ちは本人だけでなく家族にも生じる上、認知症の診断が難しいことから、早期発見、早期治療が困難となり、後の介護負担を大きくさせてしまうことも少なくありません。

次に挙げるのは、夫が亡くなり一人暮らしを始めて2年目にアルツハイマー型認知症と診断された方の、診断前の実際の症状です。家族が「元気だった母親がなんだかおかしい」と気づいていました。

<参考ケース>
アルツハイマー型認知症と診断される前の「母親のなんだかおかしい症状」

もの忘れ(記憶障害)

  • 会話中に同じことを何度も聴く
  • きれい好きだったのに夜歯磨きを忘れる
  • 半年以上も美容院に行っていない
  • 使用後のトイレを流すことを忘れる
  • 消火器詐欺にあってお金を渡したが、その記憶がないため何度も支払う

自分で判断できない

  • 夏用と冬用の衣類の区別がつかない
  • 財布に小銭があふれている(計算できないためお札を出して釣りを受け取っていた)
  • 住み慣れた町で迷子になるが、こんな道を通るのは初めてだからと弁解する

意欲の減退、積極性がなくなった

  • 好きだった料理をしなくなった
  • 家計簿をつけない、年賀状を書かない
  • お風呂に入ろうとしない

変わらない自分

  • 自分で自分の状況をある程度把握している
  • 「自分がおかしいので人に会いたくない」
  • 「去年までできていたことがどうしてできなくなってしまったんだろう。情けなくて悔しい」

このような変化に気がついたら、家族から専門機関への相談、早期受診が必須です。認知症を早期に発見できれば、適切な対応と治療により認知症の症状を緩和させたり、進行を遅らせることも可能になっています。また、本人の判断能力があるうちに今後の介護生活環境の選択や財産管理の方法を家族で話し合うことができます。

精神科の受診を拒否する場合は、「脳の健康診断に」と誘ってみる、精神科ではなく「もの忘れ外来」を受診するなどの工夫もできます。

認知症の原因とは?

認知症とは病態を示す言葉であり、ひとつの疾患を指す言葉ではありませんので、この状態は多くの疾患で起こりえます。

主な疾患としては以下にあげたようなものがあります。なかでも認知症が前景に出る代表的な疾患が、アルツハイマー病であるといえます。

  1. 変性疾患

アルツハイマー病、レビー小体病、運動ニューロン疾患

  1. 脳血管障害

脳梗塞、脳出血、くも膜下出血

  1. 脳外科的疾患

脳腫瘍、正常圧水頭症、慢性硬膜下出血、脳外傷

  1. 感染症

脳炎、髄膜炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、神経梅毒、エイズ脳症

  1. 内分泌・代謝・中毒性疾患

甲状腺機能低下症、アジソン病、ビタミンB1欠乏症、肝性脳症、肺性脳症、低血糖症、アルコール脳症、薬物中毒

  1. その他

多発性硬化症、ベーチェット病、シェーグレン症候群

認知症予防のために心がけたい生活習慣10

認知症を防ぐ確かな方法はまだ明らかになっていませんが、メタボリックシンドロームや生活習慣病を予防するような生活習慣を心がけることは大切です。

【認知症予防のために心がけたい生活習慣】
(1)たばこは吸わない。
(2)野菜、果物、魚は積極的に摂る。
(3)栄養バランスのとれた食事を腹八分目、規則正しくとる。
(4)一口30回を目安にゆっくりよくかむ。
(5)適度な運動(ウオーキングのような有酸素運動)を習慣づける。
(6)アルコールはほどほどに。
(7)ストレスは趣味や運動でできるだけ回避、発散を。
(8)仕事と家庭以外の「自分の時間」をつくる(人との交流を増やす・維持する)。
(9)新しいことにチャレンジする。
(10)年に一度は健診などで、健康チェック。

認知症と診断されたら……家族の接し方・行うべきことは?

認知症と診断されたときの家族への接し方の注意点

周囲の人が認知症は病気であることを理解し、本人が安心できるようコミュニケーションをとり接することが大切です。しかし残念ながら、家族が認知症を発症したとき、多くの人は次のような望ましくない接し方で対応してしまいがちです。

  • 初期段階では変化を認めず、「おかしなことを言っている」と無視したり説得しようとする
  • 何を話しても理解できないだろうと子ども扱いし、これまでできていた役割を奪ってしまう
  • 「みっともない」、「危険」などの理由から家に閉じ込め、外出や交流の機会をなくす
  • 何をしても無駄だとあきらめてしまう

認知症は、望ましい接し方でかかわることで本人の不安を軽減し、症状の進行を予防することができます。

認知症と診断されたら行うべきことは?

認知症の家族を抱えると、多くの人が無理をしてしまい、いつまで続くのかわからないストレスや、長期にわたる対応に体調を壊したりうつ状態になってしまうことも少なくありません。家族だけで抱え込まず、まずは誰かに話してみましょう。

認知症と診断されたら、医療・介護・福祉の各分野の連携が欠かせません。家族は次のようなことを行うとよいでしょう。

認知症患者の家族の方に知ってほしい、認知症の9大法則

  1. 記憶障害の大きな3つの特徴

記銘力低下
つい最近、見たり聞いたりしたことを覚える能力を“記銘力“といいます。過去のことを覚えている能力を記憶力と呼ぶのと区別して、最近のことを覚えている能力を記銘力と呼んでいます。認知症になると、この記銘力が衰えます

全体記憶の障害
昨夜、夕食をとったことは覚えていても、何を食べたかまで、細かなメニューを思い出せないという経験はどなたにでもあることでしょう。しかし、認知症の人の場合、夕食をとったこと自体を忘れてしまうことがあります。これが、全体記憶の障害です。

記憶の逆行性喪失
認知症のもの忘れは、忘れ方にも特徴があります。これまで生きてきた人生の記憶が、現在から過去に遡って忘れていきます。これを、記憶の逆行性喪失といいます。

  1. 身近な人に対してわがままになる

認知症の症状は、身近な人に対してより強く出ます。
一生懸命世話をしている人に対して、ついわがままになったり、無理を言ったりする傾向にあります。介護している身近な人に対しては、安心して最も強い感情を表すのです。

  1. 自分にとって不利なことは認めない傾向にあります

認知症の人は、自分にとって不利なことは、なかなか認めようとしません。たとえば、認知症の人は「財布がなくなった」と言うことがあります。これは、もの盗られ妄想という認知症の代表的な症状です。

  1. 症状が進行しても、しっかりした部分は残っています

常識的でしっかりした部分と、どうしてこんなことをするのかというような行動が入り混じっています。ときには、認知症の症状なのかそうではないのか、周りの人のほうが混乱することもあり、これは症状が進行した後期になっても同様です。

  1. 怒られた否定されたなどの悪い感情は記憶に残る

認知症の人が、何度も同じことを言ったり、さきほど食べたばかりの食事をまた欲しがったりすると、周囲の人は、「さっき食べたでしょう」「食べ過ぎですよ」と思わず言いたくなると思います。しかし、ここで否定的なニュアンスで話すと、自分が言ったことや行動は忘れてしまいますが、人に嫌なことを言われたという印象は強く残ります。これが“感情残像の法則“です。

  1. 一つのことにこだわりが強くなります

認知症には、“一つのことにこだわると、それが頭から離れず、周囲の人が否定したり説得したりすればするほど、ますますこだわり続ける“という特徴もあります。これを“こだわりの法則“と呼んでいます。

  1. 強い対応をすると、相手からも強い反応が返ってきます

認知症の人に対して周囲の人が強い言い方や対応をすると、認知症の人からも同じように強い反応が返ってきます。反対に、笑顔で穏やかに対応すれば、認知症の人からも穏やかな反応が返ってきます。これを“作用・反作用の法則“と呼んでいます。

  1. 理解しがたい行動にもすべて理由がある

認知症の人の症状は、ほとんどすべて、認知症の人の立場に立って考えれば説明がつくというのが“認知症症状の了解可能性に関する法則“です。家族や周囲の人にとっては不可解に思われる認知症の人の言動も、決して理由の分からない支離滅裂なものではありません。

  1. 認知症の高齢者は老化が通常より早くなる

個人差はありますが、認知症の人は、認知症ではない同じ年齢の人に比べて2〜3倍のスピードで老化が進むといわれています。

認知症の詳細

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