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成人の全身の血管の総延長はおよそ10万km。地球2周半分に相当します。太い血管もあれば毛細血管もあり、そのどれも人間の健康に大切な存在です。なかでも、脳の血管が破れたり詰まったりすると、生命に危険が及びます。そうならないために私たちはどうすればいいのか、脳神経外科医として長年救急医療に携わってきた菅原道仁先生にお話を伺いました。

突然の猛烈な頭痛が危険

脳血管疾患は年配の方に多い疾患ですが、若い世代でも発症するリスクがあります。globeのボーカル、KEICOさんは30歳代のときにくも膜下出血を発症しています。自宅で頭痛を訴えて緊急搬送され、対応が早かったことで一命をとりとめることができました。このような緊急性の高い頭痛は普段、私たちが感じている頭痛とどのように違うのでしょうか。

「頭痛を訴える患者さんに、最初に確認するのはどのような痛みかということ。偏頭痛などの場合は気づいたら頭が痛くなっていたという感覚ですが、くも膜下出血や脳出血のように命の危険にかかわる脳血管疾患の場合は突然、バットで頭を殴られたような痛みが起こります。患者さんによっては『8時10分ころ、朝ごはんを食べているときに猛烈な頭痛が起きた』といった具合に、発症の瞬間を克明に覚えておられる方も少なくありません。このような頭痛の場合は即、病院へ行ってください。発症3時間以内に病院へ到着するのが理想です」

くも膜下出血は血管が破れる疾患であるのに対して、脳梗塞は何らかの原因で生じた血栓によって脳の血管が詰まり、血流が途絶えることで発症します。血管が詰まった場所によって出現する症状はさまざまで、菅原先生は脳梗塞チェックとして『FAST』を推奨しています。

F:FACE・・・顔がマヒして表情がうまく作れない
A:ARM・・・腕がマヒして両腕が思うように動かない
S:SPEECH・・・ロレツが回らない。簡単な文章でも正しく言えない
T:TIME・・・病院に運ばれるまでの時間が重要。F・A・Sの症状が出現したら、すぐに救急車を呼ぶ

若いうちの生活が動脈硬化に影響

くも膜下出血や脳梗塞といった脳血管疾患が引き起こされる最大の原因は「動脈硬化」です。動脈硬化とは簡単に言えば血管の老化現象のこと。心臓から全身に血液を送る役割を果たす動脈は、そもそも新品のゴムホースのように弾力があります。しかし、加齢やストレスによって弾力が失われ、庭先に放置したホースのように硬くなってしまった状態を動脈硬化と言います。

動脈もお肌と同じく、ある日突然に劣化するのではありません。若くてもストレスがかかれば血管の内側の内皮細胞に傷がつき、血中の成分が沈着しやすくなります。内壁に沈着物がたまると血液が流れにくくなるので、血管はケガをしたときのかさぶたのように分厚くなり、やがて硬化するのです。

「若いうちは運動不足や食生活の乱れ、喫煙などが続いても大して問題ないかもしれませんが、ダメージは着実に蓄積され、将来の動脈硬化のリスクを高めます。いつまでも健康でいることは当たり前ではないのです。20歳代30歳代は幸せな人生90年のための土台作りだと思ってください」

認知症の危険度までわかっちゃう!?

脳血管疾患の原因となる動脈硬化の兆候は脳ドックで発見することができます。脳ドックでは「MRI(磁気共鳴画像)」と呼ばれる検査装置を使って脳の断面を撮影し、血管の状態などを診察します。従来のMRI装置は人間が入るドームの内径が狭い上に、機械の作動音が工事現場並みにうるさかったのですが、最新のタイプはそれらが緩和され、被験者のストレスが軽減されているそうです。

「脳ドックでは動脈硬化のほかに、脳出血を引き起こす動脈瘤の有無や、認知症につながる脳の委縮度合もわかります。これまでは委縮しているかどうかを医師が経験的に診断していましたが、最近は委縮度合の可視化と定量的な評価が可能になっています。また、脳萎縮を引き起こすアミロイドベータというタンパク質の蓄積量から認知症のリスクを診断する研究も進んでいます。脳疾患は誰がいつ発症するか分からないのが怖いところです。ご自身だけでなく、ご両親に脳ドックをプレゼントするのも良いかもしれませんね」

脳ドックの費用は受診機関や検査項目によって異なりますが、シンプルなもので3万円くらいから。検査結果をその日のうちに知ることが出来る機関も多いようです。いつまでも健康でいるために、生活習慣を見直すとともに脳ドックなどの検査を活用し、脳血管疾患の発症リスクを遠ざけましょう。