提供:gooヘルスケア
出典:株式会社法研「子どもの発達障害 家族応援ブック」
著者:高貝 就 浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター特任准教授
広汎性発達障害の子どもに対して、家庭ではどんな点に気をつけて接するといいのか、基本的な考え方を紹介していきましょう。
広汎性発達障害の子どもは、指示をすんなりと理解したり、器用にこなすことが苦手です。また、成功したという体験やほめられる体験を重ねる機会が少なく、「私(ぼく)はできるんだ」という自信が育ちにくく、劣等感が強くなりがちです。ですから、家庭では子どもが成功する機会を増やせるようにしてください。そして子どもの行いを、なるべくポジティブに受け止めてあげましょう。
以下は家庭での接し方の6つのポイントです。
①感情的に叱らない
②いけない行動は無視する
③いい行動ができたときには必ずほめる
④いけない行動をコントロールしたり、いい行動ができたら目に見える形で評価する
⑤行動目標は具体的に小刻みに
⑥親は安定したぶれのない対応をする
日々の暮らしのなかで、つい叱りたくなることもあると思います。けれども、激しい口調できつく怒鳴ったり体罰を加えても、それで子どもの行動を直すことはできません。子どもの行動には必ず原因となっている出来事があります。それを見極めましょう。
たとえば、公園でお友だちと一緒に過ごしているときに、お子さんが急に友だちにおもちゃを投げつけ、大声で泣き出してしまったとします。お母さんはあわてて「何やっているの! ○○ちゃんにぶつかったらどうするの! 仲良く遊べないならもう帰るわよ!」と言い、子どもの手を引っ張って無理矢理その場から離れさせようとすると、子どもはますますひどく泣いて興奮してしまいました。このときの子どもの行動を3つに分けて考えます。
①公園で友だちと一緒に遊んでいる
②子どもが友だちに対しておもちゃを投げ出して大声で泣き出す
③お母さんにひどく怒られてその場から引き離される
この過程のうち、①が「きっかけ、または手がかり」、②が「行動」、③が「結果または対応」と考えてください。つまり、②の行動を考えるとき、その前後の過程を考えることが重要です。具体的には①で一見静かに一緒に遊んでいるように見えていたけれど、何か子どもが怒りだすきっかけがあったのかも知れません。友だちが使っている遊具を使いたかったのかも知れません。また③の結果については、もし別の方法をとることができたら、叱って引き離すのではなく、穏やかに興奮をしずめるように声をかけられたかも知れません。そして「遊具をほかの子が使っていたら『使わせてね』と頼もうね」「おもちゃを投げるのはよそうね」と話し、子どもに具体的にどうしたらよかったかを教えてあげるのです。
このように、行動の前後の状況を分析し、効果的な関わりを考えて行動をより望ましい方向に変えて行こうとするアプローチを応用行動分析 (Applied Behavior Analysis ; 以下、ABAと省略) と呼びます。このABAの考え方は、広汎性発達障害の子どもの療育で活用されています。頭ごなしに叱って終わりでは、その行動への振り返りをその後の子どもの対人交流スキルの改善に役立てることができません。また子どもはただ怒られたのでは、自信をなくすだけになってしまいます。
ABAの基本的な考え方は、間違った行動をくり返させずに、正しい行動を伸ばすというものです。間違った行動については無視して(取りあわない、リアクションしない)、正しく望ましい行動ができたときには、「ほめたり、ごほうびを与える」という流れが基本です。子どもにはうまくいったという成功体験を積ませ、少しずつ自信を身につけさせる働きかけが大切です。このため、目標はシンプルでハードルが高すぎないものにすることが必要です。