提供:gooヘルスケア
出典:株式会社法研「子どもの発達障害 家族応援ブック」
著者:高貝 就 浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター特任准教授
発達障害の子どもの注意の仕方、一度に一つずつシンプルに
何度かご説明していますが、広汎性発達障害の子どもは「暗黙(あん もく)の了解」「空気を読む」「目は口ほどにものを言う」といった、言葉を介さないコミュニケーションが苦手です。また一度に複数のことを伝えても脳の情報処理がついていかないことがあるので、伝える内容は一度に一つずつ、なるべくシンプルにしましょう。そして、成功体験を増やして自信を育てるために、失敗したことを叱ったりするのではなく、できたことをしっかりと言葉でほめて次につないでいく、という働きかけが必要になるのです。
たとえば、朝寝坊をして遅刻しがちな子どもに、お母さんが「どうして起きられないの!それだから学校に行けないんでしょう!この頃はパソコンばかりに夢中になって!きちんと早起きしなさいって、いつも言っているじゃないの!まったくあんたはしょうがないわねえ」という注意をしているとします。
この場合、朝寝坊を注意してはいけないというわけではありません。ただ広汎性発達障害の子どもに対しては、「6時半に起きないと学校には間にあわないよ」と具体的な事実を冷静に伝えたほうがいいのです。
パソコンに向かう時間が長くなっているのはお母さんから見れば心配なことでしょう。ついでに一言、言いたくなるのも無理はないのですが、注意することは朝寝坊一つに絞らないと、広汎性発達障害の子どもは受け止めるのが難しいのです。また、寝坊という一つの失敗から「あんたはしょうがない」などと子どもの人格そのものを否定するような言葉づかいは避けるべきです。
具体的には、このように伝えるのがおすすめです。
「最近、早起きが苦手になっているね。どうしたの?」と、叱る前に朝起きるのが苦手になっている子どもの事情をたずねてみましょう。そして前向きな解決策を提案します。「朝のホームルームが始まるのが8時だから、家を出発するのが7時半。着替えとか朝ご飯を考えると6時半には起きようね」と具体的に示します。そして、そこから逆算して「8時間睡眠を確保するためには前の日の夜10時半に寝る。そのためにはパソコンは何時までに終了したらいい」など、生活リズムを整えるための枠組みを順番にはっきりとさせていくのです。
さらに望ましいのは、話しあった内容を紙に書き出して、リビングなど子どもと家族が一緒に見ることができる場所に掲示することです。話しあったことが目に見える形で確認できると、子どもも安心できますし、親御さんも日頃の心がけに役立てられます。
とはいえ、最初から毎日6時半に起きることは難しいかもしれません。けれども約束した時刻に起きることができたら、「今日はがんばって起きることができたね! すごいね!お母さんとってもうれしいよ」と本人のがんばりを認めて、たくさんほめましょう。6時半までに起きることができたらシールを1枚あげ、スタンプラリーのように手製のカードに貼っていき、5枚貯まったら好きなDVDを1枚借りることができるとか、100枚貯まったら鉄道博物館に連れて行くなど、本人の趣味にあい、家計にも無理のない範囲のごほうびを設定することも、楽しみながらがんばることにつながります。子どものモチベーションを維持するためのとても効果的な方法です。