脳や交感神経の作用のほかに、病気の一症状としても。
大脳皮質の一時的な機能マヒや自律神経の作用などの説、心の病気や筋肉の障害による症状としても現れる。

運動や知覚をつかさどる脳の部分が驚いてパニックに

「驚いて腰を抜かす」とよく言いますね。ひどく驚いた様子のたとえとして用いられる表現ですが、本当に“腰が抜けた”状態になることもあるのです。この場合の抜けるとは、腰の骨が脱臼(だっきゅう)することではなく、腰や脚(下半身)に力が入らなくなって動けなくなったり、その場にヘナヘナとくずおれてしまうことです。

ひどく驚くと、人間はどうして腰の力が抜けてしまうことがあるのでしょう? 実はこのこと、メカニズムが医学的にきちんと解明されているわけではないようで、いくつかの説明を目にすることができます。

その1つは脳の作用による説明。大脳の大脳皮質という部分には、体の動きをつかさどる運動野と、痛み・熱さ・冷たさなどを感じる知覚野があります。ひどく驚いたときには、この2つの部分がパニックに陥って機能が一時的にマヒしてしまうため、腰に力が入らなくなってしまうというものです。

交感神経の作用で背中の筋肉が動かなくなることも

自律神経の作用による説明もあります。非常にびっくりしたり突然恐ろしい目にあうと、自律神経のうちの交感神経が働いて感情が高まります。そうすると血管が収縮して血流が悪くなり、背中の筋肉である脊柱起立筋がスムースに動かなくなって腰にも力が入らなくなるというのです。

どちらにしても、ぎっくり腰や椎間板ヘルニアのときのような痛みがあるわけではなく、放っておいてもやがて回復する場合がほとんどなので、医学的に解明を試みるまでもないこととしてみられているようなのです。高齢者や、神経系の病気、骨・筋肉の病気、糖尿病や動脈硬化などがあると起こりやすいといわれています。

パニック障害や筋肉の病気の症状として

以上のようなメカニズムとは別に、「パニック障害」という心の病気の症状の一つとして、腰が抜ける状態が起こることもあるようです。パニック障害というのは、特別な理由やきっかけもなしに突然強い不安や恐怖に襲われ、パニック発作をくり返す病気です。
人は誰でも、突然に衝撃的な出来事に直面すれば、多かれ少なかれパニック状態に陥り、心臓がドキドキしたり、息が苦しくなる、体が震える、汗が出るというような反応を示します。これは危機に対して身を守ろうとする自然な防衛反応といえますが、パニック障害の場合は何のきっかけもなく突然起こり、検査しても原因となる問題は見つかりません。
パニック障害ではこれらの典型的な症状のほかに、下肢の脱力(腰が抜ける)が起こることもあります。この場合は心の病気が背景にあるとみられるわけですから、精神科や心療内科などでの治療の対象になります。

また、「横紋筋融解症(おうもんきんゆうかいしょう)」という筋肉の病気から、腰の筋肉の脱力感が起こることもあります。この病気では、骨に付着して体を動かす骨格筋が壊れた状態になり、筋肉痛や脱力、赤褐色の尿が出るなどの症状が起こります。
主に高脂血症の薬や抗菌薬など薬の副作用で生じることがあり、放置すると急性腎不全などを起こして死亡することもあるため、薬を常用している人で筋肉の異常や赤褐色の尿などに気づいたら、すぐに医師に相談しましょう。

(編集・制作 (株)法研)
※この記事は2011年11月に配信された記事です